「二硫化タングステン」は、優れた潤滑性や耐摩耗性を持つ素材ですが、あまり知られていないのではないでしょうか。
この記事では、二硫化タングステンの特性やメリット・デメリット、さらに二硫化モリブデンとの違いを解説しています。さまざまな分野から注目の素材「二硫化タングステン」について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
二硫化タングステンとは?産業界で注目の素材

二硫化タングステンは、タングステンと硫黄が化合した無機化合物です。高い潤滑性と耐摩耗性を持つため、各産業界で注目されています。
金属との親和性に優れており、付着しやすい特徴があります。そのため、不活性ガス中や高温環境下でも潤滑性能が低下しません。また、有害物質の含有量が少なく、人体への安全性が高いといえます。
さらに、真空環境下でも潤滑性を発揮するため、航空宇宙産業で利用されてきました。半導体特性を活かして、電子デバイスや太陽電池などへの利用も期待されています。
二硫化タングステンの基本特性と特徴

二硫化タングステンは、優れた特性を持っていますがエンジンオイルにはほとんど使用されていません。主に医療機器や航空機、人工衛星など、潤滑性能の低下や故障が許されない環境で活用されています。
では、二硫化タングステンは、ほかの固体潤滑剤と比べて何が優れているのでしょうか。その特性や特徴について、以下で詳しく紹介します。
潤滑性能に優れている
二硫化タングステンは、固体潤滑剤のなかで特に低い摩擦係数を持ち、高い潤滑性能を発揮します。タングステン原子を挟み込むように、硫黄原子の層が網状に配置されているのが特徴です。層と層が横ずれし、摩擦を大幅に低減します。
さらに、金属との密着性にも優れ、表面に均一な潤滑膜を形成するため摩耗しづらくなります。
高温高負荷に強い
実用耐熱温度は450℃と二硫化モリブデンより約100℃ほど高く、高温での潤滑性に優れています。また、工業技術院機構研究所の耐久試験では、高負荷に対し二硫化モリブデンの3倍以上の耐久性を示す結果を出しました。
さらに、耐荷重性能は800MPaでPTFE(テフロン)の4倍、窒化ホウ素の3倍弱と非常に高い圧力に耐えられることがわかります。
省エネ効果が高い
潤滑性能や耐熱性能、摩擦係数に優れ、部品や機械にかかる負担を低減できるため、省エネルギー化に貢献します。部品の摩耗を遅らせるため寿命が長くなり、部品の修理や交換などのランニングコストを削減できるでしょう。
また、部品や機械にかかる負担を軽減できると消費エネルギーを抑えられるため、燃料費を削減できます。
二硫化タングステンのデメリット

二硫化タングステンは、高い潤滑性能や耐熱性に優れた化合物のため、さまざまな分野で活用され、また期待されています。一方、その優れた特性がデメリットとして作用し、限られた環境下でしか活用されないことも少なくありません。
革新的な材料として注目されている二硫化タングステンのデメリットについては下記のとおりです。
非常に高価である
二硫化タングステンは、ダイヤモンドに匹敵するほど硬度が高く削りにくいため、加工にコストがかかり生産量が限られます。そのため、高価となる二硫化タングステンは、エンジンオイルの添加剤として用いられることはほとんどありません。
一方、二硫化モリブデンは天然鉱物から精製されているため、比較的安価で汎用性が高いといえるでしょう。
色が黒い
二硫化タングステンの色は黒色、またはシルバーグレー色のため、製品に添加すると黒っぽく変色する恐れがあります。
例えば、エンジンオイルに添加した場合、オイルが黒く変色し汚れ具合が分かりづらくなる可能性があります。また、白色製品や外観を重視する製品に使用する場合、見た目への悪影響が懸念されるでしょう。
次世代二硫化タングステン|多層フラーレン二硫化タングステン

優れた特性を持つ二硫化タングステンを、最新の技術でさらに性能を向上したのが「多層フラーレン二硫化タングステン」です。
二硫化タングステンは、タングステンを硫黄で挟み込み、力が加わると硫黄が横ずれして摩擦を低減します。一方、多層フラーレン二硫化タングステンは、サッカーボールのような立体構造の球体が転がり摩擦を低減します。
さらに、圧力が加わった場合、球体がへこんで圧力を分散するため、耐圧性能が向上する仕組みです。
二硫化タングステンと二硫化モリブデンを比較

二硫化タングステンと二硫化モリブデンは、特性がよく似ているため比較されることも少なくないでしょう。そこで二硫化タングステンと二硫化モリブデンの違いを、下表にてわかりやすく紹介します。
二硫化タングステン | 二硫化モリブデン | |
製造方法 | タングステンと硫黄を化学合成 | 天然鉱物から精製 |
耐熱性 | 高温に強い(450℃程度) | 中程度(350℃程度) |
耐酸性(大気中) | 425℃で酸化 | 350℃で酸化 |
耐圧性 | 極端な荷重下でも安定 | 一般的な荷重に対応 |
使用環境 | 高温・高圧・過酷な環境 | 一般的な機械や低温環境 |
価格 | 非常に高価 | 比較的安価 |
二硫化タングステンは高価なため、二硫化モリブデンに少量添加して弱点を補う使い方もよいでしょう。
まとめ|二硫化タングステンは生活必需品へ
二硫化タングステンは、優れた潤滑性や耐熱性、耐摩耗性などから今後もさまざまな分野での応用が期待されています。現時点では使用用途が限られていますが、環境問題への関心の高まりとともに、省エネや環境負荷低減に貢献する素材として注目を集めるでしょう。
私たちの生活を支える多くの製品に使われる「二硫化タングステン」から目が離せません。